はじまりは一枚のポラロイド写真だった。
世界でただひとり、誰も知らない小さな秘密に気づいたとしたら……。
でもその秘密が、自分の愛する人の人生を左右するものだったとしたら……。
孤独に生きてきた青年が、誰かのことを思い、誰かのことを守るために初めて生きようとする。
そんな姿をただひたすらに見つめる映画。

ある日、東京郊外の駅で起きた人身事故。そこに偶然居合わせた剛が撮った写真には、命を落とした女性(妙子)の、事故直前の穏やかな表情が写っていた。その後、妙子に娘(桐子)がいると知った剛は、彼女の前に姿を現すようになる。その写真の存在を告げることができないまま、剛は桐子との時間を過ごし、いつしかふたりは惹かれ合っていく。

主人公・剛を演じるのは、小劇場界で人気を誇る劇団ハイバイの中心メンバーとして旗揚げから活動し、現在はフリーの俳優として、劇団五反田団、FUKAIPRODUCE羽衣などの舞台で活躍している金子岳憲。ハイバイ結成当時からファンであった監督の強い希望があり、今回の出演が叶った。ヒロイン・桐子を演じるのは、ファッション雑誌やミュージックビデオ、CMなど、日本だけでなく海外でも活動を広げている石坂友里。そして、剛ともうひとり、事故に居合わせる存在となる清水役に、五反田団『生きてるものか』での演技が話題になるなど、幅広い活動を続けている歌人の枡野浩一を迎えている。

監督・杉田協士は、『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』の瀬田なつき、『東南角部屋二階の女』の池田千尋と同じ年に映画美学校で修了作品を監督し、その後は黒沢清、篠崎誠、青山真治、熊切和嘉など、多数の監督のもとで助監督を務めた。一方で演劇をめぐるドキュメンタリー映画制作や、全国各地の小学生からお年寄りまで、あらゆる年代の人たちとの映画作りを試みるという異色の経験を持つ。その一旦の集大成となる今作は、デビュー作でありながら、第24回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」への正式出品を決めた。テーマ曲でもある「ひとつの歌」の作曲は、サイレント映画ピアニストとして名高い柳下美恵の手によるもの。撮影は、ドキュメンタリー映画『ヒノサト』(山形国際ドキュメンタリー映画際2003参加)の監督でもあり、ペドロ・コスタ監督『何も変えてはならない』の撮影にも参加している飯岡幸子、音響は、瀬々敬久監督『ヘヴンズ・ストーリー』や横浜聡子監督『真夜中からとびうつれ』なども手がけた黄永昌が担当し、次代の日本映画を担う少数の若手スタッフの手によりこの作品は生まれた。

劇中で重要な役割を果たすポラロイドカメラ。2005年に出版され、近年のポラロイドブームが起きる火付け役となった書籍『Polaroid LIFE - ポラロイド ライフ』の著者でもあり、写真を愛好する人々から人気を集める写真店を運営しているmonogramがこの映画のバックアップに入っている。そのはじまりもまた写真だった。脚本を書くに当たっての取材で始めた写真に監督自身がのめり込み、monogramが主催したコンテストに応募し、注目されたところから両者の関係が始まった。劇中では写真店monogramもメインのロケセットとして登場している。写真の才能も買われた監督は、今作に出演もしている歌人の枡野浩一との共著となる写真短歌集『歌』で写真家としてのデビューも果たしている。