本作は劇場用の長編として作られたものではありません。舞台となる横浜・黄金町で5本の短編を撮影し、そのうちの4本を屋外の4カ所で上映。そして最後の5話目を映画館で上映するという企画の元に作られた映画です。

屋外上映される4つの短編の4人の主人公の物語が、最後に映画館で上映される短編で重なり合って、更に大きなひとつの物語を作り上げる。ひとりひとりの身の回りのほんの小さな物語の重なりが、気が付くと果てしないスケールを持つ。小ささと大きさとの不意の出会いの衝撃が、果てしない彼方へと広がる視界を与えてくれます。

本作の監督、瀬田なつきの2008年作品『彼方からの手紙』は、階段を転げ落ちるボールと大きな観覧車が強く印象に残る映画でした。その階段を転げ落ちるボールが今回の映画の4つの物語と4人の主人公であり、最後に映画館で上映される5つ目の短編が大きな観覧車ということになるでしょうか。気がつくと観客たちはその大きな観覧車に乗っていて、見たことも無いスケールで、世界を見渡すことになるわけです。

私たちの時間軸と空間軸が瀬田なつきの映画によって膨張し、見たことも無い場所や人物、体験出来るはずの無い過去や未来の出来事を、ある親密さとともに受け入れることができる。そんな神秘的な体験として、この映画をとらえてみるのも面白いかもしれません。
その時映画自体も、思いもよらぬ形を取りながら流通していくことになるはずです。観客の時間軸や空間軸の変容に寄り添うように、映画のスタイルも変容していく。その新しい映画の形を、多くの方に見てもらえたらと思っています。

本作は、屋外上映用のものすべてを映画館で見ることの出来るような約40分の作品として再編集したものです。屋外上映の広がりとはまた違う何かが、劇場のスクリーンに広がりだすことになるでしょう。